1. はじめに:Holyrood について
エジンバラはかつてスコットランドにおけるウイスキー生産の中心地として栄えましたが、1925年を最後に市中心部からシングルモルトの灯は途絶えていました。
2019年、約1世紀の空白を経て誕生したHolyrood 蒸溜所は、単なる歴史の復興に留まらない、業界全体の「ウイスキー・ルネッサンス」を象徴するる蒸溜です。
19世紀の鉄道貨物倉庫「エンジン・シェッド(貨物庫)」を再利用したこの都市型蒸溜所で、伝統への敬意と「フレーバー・ファースト(味わい至上主義)」という実験的革新を融合させています。長期熟成に依存せず、製造工程の初期段階で個性を決定づける取り組みは、現代のクラフト蒸溜所の製造モデルの先進事例と言えます。
なお、この倉庫は1970年まで英国海軍にラム酒を配給していた貯蔵庫らしいです。

2. 基本情報
- 設立年・創業年: 2019年
- 現在のオーナー: Holyrood Distillery Limited(創業者:ロブ&ケリー・カーペンター、デヴィッド・ロバートソン)
- 現在の蒸溜所責任者: カラム・レイ(Calum Rae / Distillery Manager)
- 蒸溜所名の由来: 地名(Holyrood地区)
- 所在: ローランド(エジンバラ)
創業者のカーペンター夫妻は、スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティのカナダ支部創設者で、デヴィッド・ロバートソン氏はマッカランの元マスターディスティラーでした。
立地として、エディンバラの観光および地域経済において重要な役割を果たしています。歴史的建造物(カテゴリーB指定)の再利用は、環境負荷を最小限に抑えるサステナブルな開発モデルとして評価されており、次世代の消費者層に対する強力なアピールポイントとなっています。
もともとはエジンバラの市議会が所有していたところを創設者がリース契約の承認を得て活用することになりました。
3. 製造について
- 仕込み水: ディンバラの地元水源
- 麦芽の調達: 外部調達(Crisp Maltingsなど)
- 1バッチの仕込量: 1トン(セミロイタータンを使用)
- 発酵槽: 6基(材質:ステンレス製。発酵時間は48時間から168時間以上の場合も)
- 蒸留器: 初留1基、再留1基(計2基。初留で5,000リットル、再留3,750リットル)
蒸留器の高さは7mでスコットランドでもトップクラスの高さを誇ります。 - 年間生産量: 25万リットル

現地のツアーでの話によると「31種類以上のモルト、58種類の酵母でレシピは300以上」とのことです。実際に焙煎した「チョコレートモルト」の利用にも解説がありました。
またエジンバラのHeriot Watt 大学と共同研究で、シュバリエなどの幻の大麦品種を復活させて製造をこおろみたりしています。
また蒸溜所運営は100%再生可能エネルギーで稼働させ、ウイスキー製造時の廃液を利用してペットフード用の微細藻類を育てるバイオ企業(MiAlgae)と提携するなど、サステナビリティにも積極的に取り組まれています。
蒸留器の高さも注目ポイントです。容量としては決して大きくはないですが、高さが7mもあります。
蒸溜所としてのコンセプトが、
TEST, LEARN, IMROVE, REPEAT
とスタートアップ的なマインドで運営していることも印象的でした。
4. ツアー/ビジターセンター
- ビジターセンター・ショップあり。
- 併設バーあり。
- 各種ツアーあり。
- ハンドフィルあり。200ml / 700mlで選択可能。
Holyrood Distillery Tourに参加。
施設内の案内で各工程の詳細な説明。最後に倉庫にてテイスティング。
5. 面白いポイント
フレーバーによって5種類のウイスキーを創り分けしている点が興味深いポイントです。「フローラル」、「フルーティー」、「スイート」、「スパイシー」、「スモーキー」と名付けられて、それぞれ使用する麦芽や酵母、蒸留プロセス、熟成樽を使い分けています。フローラルの場合であれば、ワイン酵母を利用し、アメリカンホワイトークの未使用樽(ヴァージンオーク)を利用しておられるとか。創業時は580万£の資金調達を実施しましたが、スコットランド国立投資銀行と個人投資家から集めたとのことです。個人投資家は、欧州最大のクラウドファンディングプラットフォームである、Crowdcubeを通じて資金を募った、とのこと。
また、Holyrood Cask Programmeを実施し、樽を販売しました。通常のカスクオーナー制度とは違い、カスタマイズの権利を得て、蒸溜所側と打ち合わせを通じて、利用する麦芽や酵母、蒸留方法、熟成樽等を自分好みにカスタマイズできるようにしたとのことです。
6. まとめ
Holyroodの面白いところはそのコンセプトで、「樽がウイスキーのフレーバーを決める」と業界で言われている中で、樽に入れる前の原酒の段階で風味をデザインすることに注力しています。
総じて、歴史あるエジンバラの醸造文化をリスペクトしつつも、科学とクラフトビールの発想を掛け合わせ、ウイスキーやスピリッツの「新しい美味しさ」を徹底的に追求し続けているのが、Holyrood 蒸溜所の最大の面白さでしょう。
参考文献
- 土屋守「シングルモルトスコッチ大全」(小学館)
- Holyrood Distillery ウェブサイト
- MALT WHISKY YEARBOOK 2026
- HERIOT WATT UNIVERSITY "200-year-old barley could be the toast of modern whisky"

