1. はじめに
スコットランド、ハイランド地方の南、クリフ(Crieff)、タレット川ほとりにあるGlenturret 蒸溜所は、「ブランドの再定義」の生きる教材といえるでしょう。
もともとは、世界的に人気なブレンデッド・ウイスキーである"The Famous Glouse"のキーモルト、原酒として存在感を示していました。元のオーナーであるエドリントングループのグループ再編に伴い、2019年にLalique(ラリック)グループの傘下となって劇的な変貌を遂げました。
単なるオーナーの移転ではなく、Lalique社が培ってきたラグジュアリー戦略のノウハウが、スコットランド最古の蒸溜所という「歴史的資産」に投入されることによって、Glenturretのプレミアム化の道が見えてきています。
以前は、生涯で28,999匹のネズミを捕獲したギネス記録を持つネコ「タウザー」で有名でした。現在は広報担当猫が蒸留所内を闊歩していました。
2. 基本情報
- 設立年・創業年: 1763年
もともと、1775年創業とされていましたが、最新の調査によって1763年とされました。 - 現在のオーナー: Lalique グループおよびハンスヨルグ・ヴィス氏による共同所有
- 現在の蒸溜所責任者/マスターブレンダー:Bob Dalgarno氏(Master Blender)
- 蒸溜所名の由来: Turret River(タレット川)
- 所在: ハイランド(クリフ(Crieff))
エドリントン社所有時代、グレンタレットは「ザ・フェイマス・グラウス・エクスペリエンス」の拠点として、年間数万人規模のビジターを動員する「ブレンデッドの家」でした。しかし、Lalique社による買収以降、「最高級シングルモルトの聖地」へと一変しました。他社への原酒供給をほぼ停止し、自社ブランドの価値最大化に舵を切ったこの決断は、資産の「利用」から「創造」への転換を意味します。
3. 製造について
- 仕込み水: Loch Turret(タレット湖)
- 麦芽の調達:外部調達であるが、100%スコットランド産。近隣農家から30-50%程度調達。ミルは電動的なポーテアス社製ミルを利用。また
- 1バッチの仕込量: 1.9 トン(銅製の蓋をもつセミロイター式)
- 発酵槽: 8 基(材質:オレゴンパイン製。発酵時間は100-120時間)
- 蒸留器: 初留 1基、再留 1基、長時間の蒸留
- 年間生産量: 34万リットル
従来ピート原酒(ライトピート、14ppm)も生産していましたが、環境配慮から2026年にピート原酒の生産の停止を発表しました。
また多くの蒸溜所が、コンピューター制御、機械化で高速化する一方、Glenturret蒸溜所は極力手作業中心のシングルモルトつくりにこだわっています。

4. ツアー/ビジターセンター
- ビジターセンター・ショップ:あり、スコットランド唯一Lalique Boutiqueも併設
- 併設バー:あり|ミシュラン2つ星のThe Glenturret Lalique Restaurantも併設。
- 各種ツアー:あり
- ハンドフィル:あり フルボトルのみ
- 購入したボトルの国際配送対応:あり
■参加したツアー
- Whisky Tour:基本的な製造工程を知る、テイスティング含むツアー
- Whisky Maker's Experience:5種類の限定原酒を用いて、自分でブレンドする体験。100mlのハンドフィルができる。

■ブレンディング体験詳細
全体の流れとしては以下の通りです。
- 概要説明
- 香り当てクイズ
- 5種類のサンプルテイスティング
- レシピ実験(2回)
- ボトリング
まずはルール説明があり、その後は「香りを取るとは?」ということで、5つの香りを当てるクイズとなりました。
*お読みになる方が参加するかもしれないので、ネタバレは控えます。
Glenturretの原酒サンプルをテイスティングしていきます。
5本ともアルコール度数は46%に揃えられていて、どれも熟成年は5年で揃えられていました。
印象的だったのは、シェリーカスク熟成タイプが2種類あったのですが、樽の木材を変えていることです。
これは最初から教えてくれるし、ツアーによっても変わるかもしれないのでご紹介します。
①バーボンカスク
②ソーテルヌカスク
③シェリーカスク(アメリカンオーク)
④シェリーカスク(ヨーロピアンオーク)
⑤ピート(バーボンカスク)
同じシェリーカスクでもアメリカンオークと、ヨーロピアンオークです。たしかに香りを比べるとアメリカンオークの方が甘め、ヨーロピアンオークの方がスパイシーさを感じます。
5. 面白いポイント
- ガストロノミーとの融合: 蒸溜所内に位置する「The Glenturret Lalique Restaurant」は、2026年版ミシュランガイドにおいても2つ星を維持。エグゼクティブ・シェフ、マーク・ドナルド氏による料理は、ウイスキーを「飲むもの」から「食文化の一部」へと再定義しました。
- 伝説の猫「タウザー」の進化: 28,899匹のネズミを捕獲したギネス記録猫「タウザー」を、現在は広報担当猫の「グレン」と「タレット」が5,000ポンドのラリック製チェアでくつろぐ姿へとアップデート。これはブランドの産業的背景からラグジュアリーへの転換を象徴する完璧なメタファーとなっています。
- クリスタルとの芸術的親和性: ジェームズ・タレル氏ら世界的なアーティストとのコラボレーションや、50年熟成ボトルに採用されるラリック製クリスタルデキャンタは、液体の希少性に芸術的価値を付与し、投資対象としての魅力を最大化させています。通常ラインでも洗練されたボトルデザインで見た目にも磨きがかかっているように思います。
6. まとめ
Glenturret蒸溜所は、「スコットランド最古」という象徴を尊重しつつ、、Lalique社の美意識と持続可能な先進技術を融合させることで、スコッチウイスキー界におけるラグジュアリーの新たな基準を示唆しています。かつてのブレンデッド用の原酒は、今や芸術性とガストロノミー、そしてサステナビリティを兼ね備えた、最高峰のシングルモルトブランドへと生まれ変わりました。
参考文献
- MALT WHISKY YEARBOOK 2026
- 土屋守「スコッチモルト大全」(小学館)
- サイト
*写真は全てサイト運営者が自身で撮影したものです。
* 記述内容に誤りがある場合は是非ご教示ください。
* こちらは当サイト運営者訪問時点(2026年4月)での情報となります。蒸溜所側での変更もありますこと、予めご承知おきください。

